｢千里山会｣の諸先輩方には功成し名を遂げた方々が山程いらっしゃいますが、奥田幹事から執筆依頼が来た時には正直小生如き者が執筆して伝統有る｢千里山会｣を汚すのではと迷いました挙句日の当たる人生の表街道を歩んで来られた方々とは違った事を書けば良いのではと御引き受けした次第です。諸先輩･諸氏は千里第二小学校時代から優秀な成績を修められ一流企業の役員や大学の教授等として勇躍御活躍されて来られた事と拝察します。

　然し、私は家庭の事情も有り千二･一中･茨高までは普通の目立た無い生徒でしたが女性には何故か恵まれて居ました。裏街道への切っ掛けは大学受験時からで志望の国立一期校の試験は東京世田谷の明治大学で有りました。其の時凄く垢抜けした可愛い受験生を見つけ試験中も心は彼女へ行きっ放し。当然一浪。其れで止む無く土佐堀に有った予備校へ。処が其処で当の彼女とバッタリ。何と幸運な事か！。彼女は大手前高校の生徒でした。試験場で御互いに意識をして居た事も有りもう２人共舞い上がって仕舞い予備校の授業には殆ど出ず昼間から靱公園で逢瀬を重ね生来(遺伝？)の女好きが昂じて遊び呆けました。彼女は医者の娘だったので其ちら(？)の方は大丈夫でした。結局一浪では私立にしか受からず夏頃に厭に成って中退。二浪。此れで大阪に居られ無くなり東京へ。後に風の便りで彼女も二浪し私立の医大へ行ったそうです。何だか複雑な気持ちでした。まあ何とか東京の二期校に入学したものの帰阪したのは５年間で３回でした。(二浪一留)
　先ず入学して最初に面食らったのは｢大阪弁｣でした。或る時ラグビーの練習前に着替えをしている時一番最初に終った私がグランドでソフトボールをして居るのを見て｢俺も寄して貰お｣と言ったら先輩から｢未だ奴等の時間なのに何で人のやってる事を止めさせるんダ｣と叱られ一瞬何の事だかサッパリ解らなかったのを隣に居た岡崎出身の奴が｢大阪弁の寄すは東京では止すに成るんだよ｣と教えて呉れ、畜生田舎者扱いしやがって此れは拙い何とか東京弁をマスターしなければと其の夜から深夜のニッポン放送の｢オールナイト･ニッポン｣を毎日朝方まで聴き乍ら改新に努めました。其の頃は今の様に吉本興業の漫才師も東京には殆ど居なかったし上方の落語家も少なかったのです。ダウンタウンや明石屋さんまが居て呉れたらもっと楽だったのに。然し此れも後に成って見れば楽しい思い出でした。御蔭で後々に成ってからも初対面の人は私が大阪人とは全く気付かない位に迄に成りました。
　逆に一年時に｢今年は人数が集まら無いので合宿は中止｣と主将が決めたので東京から北海道迄自転車旅行をした時は戸田橋から国道４号線を北上し途中中尊寺や十和田湖に寄り青森から青函連絡船に乗るべく八戸から青森迄の路を聞いたのですが地元の人の言葉が丸で外国語に聞こえサッパリ解らず｢ヤッパリ日本は広いんだナ｣と尽く々感じました。

　５年間の学生生活は毎日午前中は麻雀、午後はラグビー、夜は池袋や新宿の繁華街に繰り出すと言う充実したものでした。剣道部の悪友が三島由紀夫の「盾の会」の猛者で御陰様で夜の世界では何不自由無く飲み歩き其の道の人と喧嘩をしても｢盾の会｣の名を出せば警察官迄が味方に成り極道の世界の方々とも御付き合いをさせて戴きました。此の時期にも女学生を始め色々な職業･年齢の女性と御友達に成り怖さも優しさも知り此の事は爾来人生に大いに役立ちました。２年の時ボン大学の夏期講習に行こうと初めて一人で海外へ。羽田からロンドン経由でケルンへ。列車でやっとボンに着き扨て宿舎に指定された大学の寮が何処に有るか全く分からず(地図も読め無い)駅で可愛い娘に聞いた処何と寮まで案内して呉れたのです。其の間拙い独語と英語で話し別れ際に御礼を言い一応何かの為にと住所を聞いておいたのです。普段ラグビーしかやって居ない私に独語が出来る筈が有りません。授業は難解で毎日テストの連続で最後には白紙で提出の有様でした。唯一の楽しみは期間中のライン河下りの遠足丈で一ヶ月の講習の最後に担任の教授から｢今迄日本からは独文学や独言語学の研究の為優秀な学生が沢山来たが貴方は其の中で最低の成績でしたヨ｣と言われ返す言葉も有りませんでした。いざ帰国と成りボンに着いた時の彼女に帰国する旨御礼の手紙(英語で)を書いた処是非家に来て欲しいとの返事が有り其れは無理だと断ったのですが寮迄迎えに来て仕舞い到々連れて行かれました。 家では御馳走が待って居り家族とワインを飲み乍ら食事が進むに連れ元軍人の親父さんが酔う程に饒舌に成り｢今度戦争する時はドイツと日本丈で組んでやろう、イタリアは直ぐ降参する腰抜けだから駄目だ！｣と言う事に迄成って仕舞いました。親父さんは三国同盟でイタリアに裏切られたと迄言い出し｢ハイ｣とも言えず返答に困って仕舞いました。夜も遅く成り｢もう帰らないと｣と言うと彼女が自分の部屋に来て呉れと強引に連れ込まれ酔った勢いでもう如何にでも成れと到々泊まって終い翌朝起きたら何と裸でした･･･。
　学生時代は又学園紛争の真っ只中で体育会系はノンポリが多く学校側に付き｢全学連｣や｢核マル｣の築いたバリケードを壊し血みどろの闘争をしましたが体力では頭デッカチの奴等には負けた事が無く何とか卒業出来ました。時に専攻語学科の主任教授から教授室で(講堂は占拠されて居た)証書を貰った時も「君とは５年間で８回しか教室で会わなかったネ」と言われ「御無沙汰しました、何しろ忙しかった物で･･･」と丁寧に御礼を申し上げました。然し主任教授は紛争で学校が閉鎖になり授業処では無かったが私が毎日グランドでラグビーの練習に明け暮れて居たのを自分の教授室から見下ろして居て出席日数をギリギリ満たして呉れたのでした。
　　　　　　　　　　　　　
　ラグビーの御蔭で卒業してからの就職には困ら無かったのですが入社した会社の係長が本物のお釜で此れには閉口し遂に２ヶ月目にぶん殴って仕舞いました。此れを本部長に目撃され後に課長から｢もう少し我慢出来ないか？ボーナスも出る事だし｣｢幾らですか？｣｢五千円だよ｣｢では辞めさせて戴きます｣となり、其処から又裏街道の続きが始まり元女優で産婦人科医の奥さんの燕やヤクザ映画の監督の鞄持ちで太秦の撮影所で高倉建さんや藤純子さんとの楽しかった時を経て小さなプロダクションにデザイナーとして入社。或る時イタリアのグラフィック雑誌を見ていた時強烈な赤色が目に飛び込んで来て｢此れは絶対イタリアへ行かなければ出せない色だ！｣と直感し丁度社長と社長の女の事でトラブルを起こして居た時だったので喧嘩して直ちにイタリアへ。まさかドイツ人の彼女の親父さんが悪口を言った国へ行く事に成るとはと不思議な気持ちでした。
　此処から現在に至る３０年に渡る本物のカメラとの出逢いが始まりました。伊語の勉強の為ペルージアの大学に通って居たが授業が詰らないので米国人の女友達と授業をさぼってカテドラルの階段で街の人々をぼんやりと眺めて話して居た時一人の日本人らしき一見カメラマン風の男が「何処か面白い処はないかネ」と近寄って来たのです。当時は日本人が未だ少なく彼も一目で判ったのでしょう。聞けば彼はスペインで闘牛の写真を専門に撮って居たプロでした。首から３台の一眼レフを振ら提げ物見遊山にイタリア其れも小さな町ペルージアに来たのです。(今はサッカーの中田で有名ですが)。「凄いカメラですネ！」「あゝ此れ？カメラ好き？」「ハイ、でも此んな凄いのは触った事無いんですが」｢簡単だヨ、此れこうやって此処こうやれば写るヨ｣「へー？」「やって見る？」「良いですか？」「ソウソウ、出来るじゃない！」「３台も持ってるんですネ？」「アア、此れ古いしフイルム入って無いから良かったら君に上げるヨ」「エーッ、ホントですか？」「ウン」。当時としては憧れの一眼レフ、アサヒ･ペンタックスＳＰと２００ミリの望遠レンズを一本。相当使ったと見えてボコボコの禿げチョロケ。彼は其のまま何処かへ行って仕舞いました。｢ワー、此んな凄い物貰っちゃった、如何しよう！｣｢カメラマンにでも成れば！｣彼女は平然と言いました。其れが私のデザイン心に火を着けたのです。其れからは露出もシャッター･スピードも無手勝流でナケ無しの金を叩いてフィルムを買い学校処では無く毎日バシャバシャ撮り捲りました。
　ペルージアでの伊語も半年で切り上げミラノへ。其処でも辺り構わず人物中心に無我夢中で撮りました。其の後トリノへ移り建築家の事務所で製図のバイトで生活費を稼ぎ乍らデザイン学校に入ったものの｢デザインセンスは体得するべし！｣と勝手に決め込み街中を撮り歩きましたが物足らずイタリア中を周ってからフランスのディジョン大学で空手を教えて居た大学の後輩の処に寄りフランス娘達に｢俺はプロのカメラマンだ｣と偽り写真を撮って上げるからと只で居食と？を御馳走に成り其の脚で遂にドイツ･ミュンヘンに入り其処で世界最高と言われて居た｢ライカＭ３｣と｢エルマー５センチ｣を手に入れた時は天にも昇る気持ちでした。昨年初めて自費出版した写真集も此のアサペンとライカで撮った物です。勿論彼女達にはイタリアに帰ってからチャンと写真は送って上げました。然し、１９７４年にはオイル･ショックが世界中を襲い超インフレに成り生活出来無く成りました。私は段ボール箱２６個を日本に船便で送り保々の体で逃げ帰って来ました。帰国後運悪く東京税関から呼び出しが掛かり抜打ち検査で数箱にヌード本を入れて居たのが見付かったのです。唯毛が見えて居る丈で。返して欲しければ裁判でと言われても金も暇も無い私には如何仕様も無かったのです。当時の海外版のプレイボーイやペントハウスは無修正でしたが日本では禁止されて居り殆どが税関に有ったのです。｢木端役人め自分達ばかり楽しみやがって！｣と言っても筋違いの後の祭。
　帰国してからも波乱万丈の人生が待って居ました。輸出広告代理店(日本の製品を海外の雑誌や新聞に掲載する)のデザイナー、営業、外資系広告代理店営業、大手総合広告代理店の国際局営業と順調に行って居た矢先、三九歳の時暴飲暴食煙草それに？が祟って膀胱癌に。最初の医者は膀胱結核だと誤診。知人の伝てを頼って国立がんセンターで即手術、人口膀胱に。入院中には子供達が幼かったので辛い事や痛みに耐えかね癇癪を起こした事も有りましたが｢ラグビーの合宿での死の様な練習に較べれば何の此れしき！｣と乗り切りました。半年でやっと回復しマーケティング･プランナーとして復帰。然し御丁寧に４年後に腎臓癌が見付かり又手術。御蔭で腹部を４回も開けたので最後は糸ではなく針金で縫合しました。抜糸の時が又一騒動。若い医師が針金を切る時血が噴き出しモタモタして居るので痛さと怒りでペンチを奪い取り自分で全部切り取りました。無事退院したものの其の後は職を転々とし人生のどん底に。

　扨て写真はと言えば帰国後もずっと続けて居り２台だったカメラも次々に増え一眼レフ(ニコン)とレンジファインダー(ライカ、コンタックス、ニコン等)の両方に欲を出し買っては売り売っては買うと言う一番悪いパターンにのめり込み一眼レフは常に最新の物を求めレンジファインダーは古い物から揃えると言う具合で一時期には３２台にも成り此れも一種の病気で特に｢ライカ･ウイルス｣に感染すると不治の病と成って仕舞います。無手勝流と独学で始めた写真も矢張り少しはプロの先生に教えを乞わなければと日本写真会館(ＪＣＩＩ)や桑沢デザイン学校の講習を受け何回か賞を取れる迄に成りました。又会社勤めの合間に入学式や運動会、結婚式や七五三、イベントやポートレートの撮影等の副業にも手を出しカメラマンとしての腕も磨きました。カメラの台数も徐々に淘汰し現在はやっと１２台に迄減りました。レンズはまだまだ減りませんが･･･。
　一方仕事は｢捨てる神有れば拾う神有り｣で５０歳にしてソフトウエア開発会社のマルチメディア事業本部に就職。ディレクターとして広告宣伝関係の仕事に恵まれました。然し其処で又もや本部長と意見の食い違いを起こし人事部採用課と言う全く未知の世界へ。然し其処では人を見る目の修行をさせて貰いました。その結果優秀な人材の採用を社長に認められ今でも友人として御付き合いをさせて戴いて居ます。５年後、昔からの友人の紹介でＧＥキャピタルが買収した消費者金融の大阪本社へ引き抜かれ広告宣伝部長として単身赴任し新しいＣＭも制作しましたが生来の闘争心が剥き出しに成り又ＧＥが入ニューヨークの貿易センタービルの崩壊で膨大な額の保険金を供出し世界的な人員削減の煽りを喰って只の１年３ヶ月でリストラに遭い懐かしの東京に戻って参りました。今年に入って昨年出版した｢写真集｣が切っ掛けでフィルムの現像会社に勤め始めましたが此れで１３回目の転職です。女房と娘からは｢今度だけは喧嘩しないでネ｣と強く念押しされ引越しで多額の借金を抱えている身では働ける限り無事に勤める約束と決心をしました。

　此の様な人生を送って来た事で家族には申し訳無く思う事も度々有りましたが自分の人生を振り返り後悔は一切して居りませんし詰まら無い人生だったと思った事も有りません。表街道を歩んで来られた皆様から見れば正に裏街道の人生でしたが｢何事にも表と裏が有る｣と私は思います。

　最後まで御読み戴き誠に有難う御座居ました。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　合掌。

（文中の写真は「L'Italia Mia 1973〜74」より抜粋、本文とは関係ありません）