五年の二学期に編成替えがあり、男女混成の星組に私は入り、初めて男の先生が受持ちとなった。それが山本先生との出会いである。第一印象は、やさしそう。そして間違いなく今に至るまでやさしい先生だ。しかし聞くところによると、男子にはコワモテだったらしいが…。次に真面目で誠実、一番大事なことは絵が上手。そりゃ画家になるお方だから、上手などとは失礼も甚だしい。しかし子供の考えることだから、お許しください。先生と先生のお兄様の共著によるデッサンの本とおぼしき本を宿題の参考にさせて頂いた事も懐かしく思い出される。
　そんなこんなで山本先生には、いい思い出ばかりだが、私のとって置きの話はそんな平凡な話ではない。先生は男前、美男子、ハンサム、二枚目、これが言いたいのだ。私が二枚目に弱い土壌は、その頃培われたものらしい。
　なかでも強烈な印象を受けた思い出を打ち明ける。それはある夏の日のことだ。五年か六年かは忘れたが、勤労作業でクラス全員と先生が山に行った。開墾で木を伐る（大木ではない）という事だったと思うが、先生が上半身裸になり、生徒に教えるべく木を伐りだした。生徒は後ろに一列に並んで見学していたが、目の前の先生の背中に私は釘付けになった。それは彫刻の様に美しかった。男の人と言えば父しか知らず、その父は年と言い、肥満度と言い、鑑賞に耐えないスタイルであったから、そのショックたるや大である。贅肉がなくて（今だにないみたい）逆三角形で、しかも色が白い。決して筋肉マンではないが、私が見た最初の男性の背中であった。
　「ウヒャー、これが男の人の背中かー」しかも暑い時期だから、先生の背中の細胞全部から、水滴が沸きあがり、タラタラと幾筋もの汗となって流れ出したのだ。それが夏の陽を浴びてキラキラ光る光景を私は美しいと思った。あの日私は間違いなく思春期の門に立っていたんだと思う。
　山本先生、子供と思って油断して裸になんてならないで下さい。目の毒です。
　昔々のお話でした。
　
　長じて19才で結婚した私は、四国は土佐へ住み着き今に至っている。その間、27才の時、関節リウマチという難病を発病し、身障者になってしまったが、千二一会に行けば、オテンバで元気だった私を知っていてくれる先生や友に会えるから、これからも体の続く限り出席したいと思っている。