只今ご紹介いただきました高見でございます。この場に立って少々戸惑いを感じて後悔してます。私達の同級生で幹事をしている萩原君から「講演してくれへんか？」と電話がありましたが、今紹介がありましたように百貨店ではお客様からのご依頼に「ありません」「できません」は言わないと教育され、教育してきた関係から「できない」と言えなかったのです。
　考えてみると、このような状況で講演するのは大変難しいと言うことがよくわかりました。一年に一回懐かしい方々と会って、楽しい話をして、おいしい食事をしてというときに、またこれだけ世代の離れた出席者全員が楽しく聴いていただける話なんかありません。大阪から応援団か野次馬かわかりませんが駆けつけてきてくれているので「しゃーないなー」と覚悟を決めていたら、頭の上がらない先輩の顔が見えて心臓がドキッとしました。私の兄弟で一番上の兄のところへ嫁いできたのが千里山の文屋家の長女で、その義姉が実は千里山小学校の先輩になるのですが、今日はお目付役よろしく、先ほどバッタリ会ったものですからドキドキしているところです。
　お聞き苦しいところは、そんな状況に鑑みお許しください。
　さて、百貨店は様々な商品を取扱い、またイベントも多く開催されます。私は婦人服関係の仕事が長かったのですが、店長と言う立場になりますといろいろな方とお会いする機会があります。現在は営業から離れ診療所の事業をしていますので、健康を切り口に印象に残る方々の出会いをまとめてみたいと思います。
　長寿でということでは、小倉遊亀先生の思い出が一番先に浮かびます。白寿展、百歳記念展を三越で開催させていただき、更にパリの凱旋門広場に面した三越のギャラリーで、ヨーロッパの人々に小倉先生の全てを観てもらう個展を開催しました。シラク大統領はじめフランスの文化庁や経済界の方々もお見えいただき、大変好評をえて終了し、その記念展を日本橋三越本店で開催した時のことです。
　レセプションを先生の体調を考え欠席で計画しておりましたところ、ご本人が出席したいということになり、大勢の方がお迎えする中でレセプションが始まりました。到着されて会場にご案内するまでご休憩を取っていただき、席へご案内し
　「日本茶をご用意いたしましょうか？」
　と申し上げましたら、
　「さきほど、プディンを頂戴したので、レモンティーをお願いします」
　とはっきり大きな声でご本人が言われて吃驚しました。その大きな声と適切な選択に驚かされ、そして会場にご案内した時に、手を振りながら堂々と入場されたあの可愛いい仕草に、とっても素敵な、お洒落な一〇四歳の先生を拝見しました。
　主治医の日野原重明先生がユーモアを交えた味のあるご挨拶で小倉先生を紹介いただきました。
　「私が一〇四歳小倉先生の主治医、日野原重明、八八歳です」
　会場がドッと湧きました。そして毎日起きたら指を折りながら大きな声で「一、二、三、・・・・・二〇まで」数えること、一日一回は筆を持って絵を描くことをお願いして、先生は毎日励行されお元気である、と挨拶されました。
　最後に小倉先生が、
　「今日はありがとう！」
　と大きな声で一言挨拶され、手を振りながら退場されました。生涯現役で元気に長生きされた方に共通することは、「お洒落、大きな声、姿勢の良さ、手の細かい動き、強い意思や意欲」ではないでしょうか。

　レセプションの翌日、日野原先生のご紹介で加藤シズエ様がご来店になりました。背筋をピーンと伸ばし、真っ白な髪の毛はきれいに梳かれ気品溢れるご婦人でした。後で知ったのですが、舌癌の治療で会話が少し不自由と言うことでしたが、一〇二歳と思えないレディーで、私の案内に
「どうぞ気を使わないでください」
と目で優しく語りかけるとっても素敵な方でした。
　後日お手紙がお嬢様の加藤タキ様から頂戴しましたが、その中にご本人の直筆の手紙が入っておりました。乱れも無く本当にきれいな、流れるような字で当日のお礼が書かれていました。

　片岡球子先生は横浜三越で「面構えシリーズ」の個展を開催した時に、大観先生の思い出とともに、
　「大観先生には雪景色でよく叱られた。でも私は北海道で生まれ育ったから雪は大観先生よりよく知っている。雪は白だけでなく時間、天気で様々な色に変化するのよ」
　という話をお伺いしました。先生の意志の強さ、強いこだわりを垣間見た思いがしました。それであの強烈な色使いと強い線があるのかと感心させられました。今年一〇〇歳で今も、愛知芸大で教鞭をとっておられると聞いています。

　もう一方、高木東六先生の思い出をお話したいと思います。横浜で八八歳のお祝いをするので、プレゼントを持って参加するように或る女性から言われネクタイを用意して行きました。ピアノを前に、弾きながら、歌いながら、の楽しいバースデイパーティでした。
　「先生の若さの秘訣はなんですか？」
　と言う質問にニコニコしながら
　「女性ですよ。女性を意識してお洒落すること。お洒落しなくなったらおしまい。僕は白いシルクのシャツに赤いネクタイ、黒いベルベットのジャケットでお洒落するんだ！」
　と言いつつ、またピアノに向かって��水色のワルツ�≠�弾き皆で歌っておられました。
　他にも多くの方がおられますが、このようにお洒落する方、ファッションを楽しむ方は、健康で長生きされている方が多いように思います。

　別紙に��脳の健康度チェック�≠ﾌ二〇の質問をつけておきました。私は医者ではありませんし、今日此処で皆様の脳の健康度をチェックして��五箇以上該当する人は要注意�≠ﾆか��十箇以上該当するようであれば物忘れを外来で詳しく調べた方がよい�≠ﾆ言うつもりはありません。当財団が先般主催した健康セミナーのテーマが「痴呆から身を守るには」で使われたものを参考までにお付けしただけですからご安心ください。その時会場から
　「痴呆にならないようにするために、どんなことを心掛けたら良いのでしょうか？」
　と言う質問がありました。
　「毎日、漫然と過ごすのではなく、計画的に過ごすようにしてください。なんでも結構です。例えば散歩する時、今日はこの道を通って、あの公園を横切って・・・と言うように、��今日は何をする�≠ﾆ考えて行動する習慣をつけることが大切です」
　と言う話をしました。

　私は三越で、婦人服ファッションを担当していましたが、今日お話をさせていただいた方々はご自分の個性を、洋服から、靴、ハンドバック、アクセサリーに至るまでトータルで隙を見せることなく、上手にさりげなく表現されていました。今日はこういう事があるから、このような洋服とアクセサリーでコーディネイトしてなど考える事は痴呆防止にも役立つのではないかと思います。
　年をとって素敵なお洒落をしませんか。何も高額なものがお洒落とは限りません。中には洋服や持ち物に着られている人も多く見かけます。着られるのではなく、着こなしてご自分の個性を表現してもらいたいと思います。
　「今日は同窓会。私着ていくものがない！」
　「今日の食事に着ていく物がない！」
　と奥さんが口癖のように言うのをよく耳にしませんか。今日は女性の味方して男性の方にお願いしますが、そういうときは
　「買うてきたらええやんか。」
　と言ってあげてください。これで痴呆が予防できると信じて「どうぞ」と。
　一方でこんな経験をされた方も多いのではありませんか。奥さんの着ていく洋服はご主人の「買うてきたらええやんか」で解決したあと
　「ほんなら、俺はどないしたらええんかいな？」と言われると素っ気なく
　「あんたはその辺のもんでええやんか」。
　これはないでしょう！是非止めてもらいたいものです。
　今日からは二人で仲良くお洒落して、健康で素敵な生活を楽しんでください。
　ご清聴を感謝します。

「脳 の 健 康 度 チェック ２０ の 質 問」 埼玉県が地域の高齢者検診で早期発見と予防、進行抑制等のチェックに使用している一覧表 １．毎日１回以上置き忘れがある　　　 ２．毎日１回以上度忘れがある　　　　 ３．今日が何月何日かわからない　　　 ４．朝食の内容が思い出せない事がある ５．漢字が書けない事がある　　　　　 ６．計算や勘定をよく間違える　　　　 ７．物の名前が出てこない　　　　　　 ８．知り合いの人の名前が出てこない　 ９．新聞やテレビを見なくなった　　　 １０．よく知っている道で迷うことがある １１．毎日１回以上しまい忘れがある １２．元気で働けない　仕事をやる気がしない １３．この１ヶ月間　電話を一度も掛けていない １４．野菜の名前を１０箇以上言えない １５．いつも孤独感や寂しい気分になる １６．会合や社会奉仕活動に全く参加していない １７．この１年間　旅行を全くしていない １８．話している言葉がよく聞こえない １９．火の不始末がある ２０．現在の総理大臣の名前を知らない